平成22年6月15日 第1回新作日本刀 刀職技術展覧会−2

13日(日)、800円の入場料を払って展覧会の作品をゆっくり会場で作品を見ていると、前日一緒に拉致された久保刀匠も来ているではありませんか。やはり十分見る事が出来なかったらしく、ちゃんと作品を見に来てました。

先にも書いたように、今回の展覧会では刀職技術展覧会も兼ねていますが、私は刀鍛冶で研磨や刀装部門のコンクールの事はよく分かりませんので、今回は内容に言及しません。ただ、以前日刀保で行っていたコンクールに比べて出品者は少なく感じはしました。

それでは本題の作刀部門のお話ですが、全体に見た感じの感想はと言いますと、現代刀にも若干の流行が有るのはお分かりだと思います。今回の審査は今まで以上に公平に行われたと聞いていますが、上位の作品の並びを見ますと、やはり流行の影響は排除出来ないようですね。どのような流行か、それは現代刀の展覧会を見ていると分かると思いますが、皆さん見てのお楽しみとうい事で、取り敢えず展覧会を見に行って下さい。

さて、私はへそ曲がりで特に作刀に関する技術的な部分に注目をして展覧会の作品を見る傾向に有ります。審査の結果とは関係なく、私から見てこれはどうやって造ったのだろうか? と思った作品が何点か有りました。実は私はそう言う作品を見る為にわざわざ東京まで出て来ているのです。

そんな訳で、先ず最初に和歌山の大川さんの短刀の地鉄の面白さに目を奪われました。少し脇ではありますが、肌立った感じが古刀期の地鉄そのものに見えまして、いったいどのような地鉄を使いどの様な鍛錬を施したのか想像がつきませんでした。

石川県の松田さんの直ぐ刃の短刀も面白かったですね。直ぐ刃の錵た刃縁に湯走りが有り二重刃になっていたりして、とても良い感じになっていました。どうも古い地鉄を手に入れる事が出来たみたいで、それを使った様な話しを聞いています。やはり地鉄の感度が良いのでしょうか?

それから、今回金賞第1席の明珍君の太刀の丁字乱れは、今までの彼の作風を超えて素晴らしい出来になっていました。彼は先に出て来た久保刀匠の弟子で、数年前に私の地元の兵庫県に帰って来て仕事を始めた新人です。こういった若い刀鍛冶が出てくるのは、頼もしくも有りまた脅威にも感じますね。

他にも古川さんの素晴らしい地鉄や、いつもは落ち着いた雰囲気の作品が多い栃木の加藤さんの、いつにない片切り刃の激しい作品など見所は色々有りましたが、身内の宣伝を書くのは気が引けますので、ここでは書きません。

それから、今回の展示の中で一際異彩を放っていた作品に付いて書いておきます。それは、高蒔絵の技法を応用して造られた漆刀のレリーフです。漆刀は木の板に高蒔絵の技法を用いて刀の片面と同じ形に表面を盛り上げて、そこに銀粉を蒔いて、刀の刃や地鉄の部分に見える、匂い口、映り、地景などの模様を再現した作品です。今回は吉光の剣と貞宗の寸延び短刀の模作が展示してありました。

初めて見る人は、それが本物の刀だと信じ込んでしまう程良く出来ていて、私も初めは、なんで本物の刀をわざわざレリーフのように板にはめ込んでいるのかと不思議に思っていましたが、説明を読むと漆で造った漆刀と説明が書いてありました。でもその説明を読んでもまだそれが本物に見えてしまう程よく出来ているのです。何せ、実物の刀ではなかなかうまく作り出せない、錵映りや地景までもが絶妙に再現出来ているからです。

私はそれが漆刀だと分かっていても、値段が釣り合えば欲しいと本当に思いました。なぜなら、私が一生かかってもこれほど本歌に近い作品は造れそうにないからで、自分が仕事をする時にその漆刀を見ながら、気持ちを高める事が出来るかもしれないと思ったからです。(私は仕事に行き詰まり気分が沈んで来ると、目標とする昔の名品の写真を眺めて気分を高めています。もちろん本物の刀を見る方が良いに決まっていますが、本物の正宗や貞宗はそう簡単に手に取って見る事は出来ませんからね。)

まあ、他にも面白い作品が沢山有りますので、興味の有る人は会場まで足を運んで是非ご覧下さい。展覧会を見に行けない人も興味の有る人は、今回の展覧会の作品集を購入してみて下さい。今回の作品集の写真はとても良く出来ていますし、全ての作品の写真が出ています。刀の写真が得意な私が言っているのですから間違い有りませんよ。

残念ながら漆刀の写真は出ていなかったですが.....。

尚、刀文協の第1回 新作日本刀・刀職技術展覧会は
7月25日(日)まで東京都虎ノ門・大倉集古館において開催されています。
開館時間 10:00〜16:30 (入館は16:00まで)
休館日 月曜日 (7月19日は開館)
料金 一般:800円  大学・高校生:500円  中学生以下無料
※土・日曜は高校生以下の生徒と引率の両親、教師は無料
※20名様以上の団体は100円引き
※障がい者ならびに付添一名は無料

http://www.nbsk-jp.org/japanese/news.html

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